薄明宮の奪還 更新日:2012.04.29


 シャウト

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“おーい、聞こえるか? ギメリック!”

 闇を貫く雷のように、レスターの“シャウト(=思念の波)”がギメリックの心に響いてきた。
予想していた通り、かなり強い。
これなら、お互いがこの辺りの山岳地帯にいる限り、間違いなく届くはずだ。

おーい!……う〜ん、発信だけというのは……何とも張り合いがないね”

 レスターのつぶやきを聞きつつ、ギメリックは広場の向こう端に立つ彼の方へと歩み寄って行った。

 驚くほどの精神力の強さ……今はまだ混ざってしまっているが、きっとレスターならすぐに、シャウトと個人的な思考を切り分けることも可能になるだろう。

 しかし問題がないわけではない。常人である彼のシャウトは、敵にも筒抜けなのだ。この試みのために今は、ギメリックが辺りに結界を張っている。それだけでなく、念のため自分だけにしか聞こえないようシールドしておいて良かった、とギメリックは思った。そうでなければ、まだ寝ている他の魔力保持者たち全員を、叩き起こしてしまったことだろう。

 実験のため一人離れていた場所から、ギメリックはレスターとウィリアムが待っている場所へと帰って来た。すでに夜は白々と明け始めている。お互いの表情が判るほど距離が縮まったとき、レスターが再びシャウトした。

ギメリックのネクラ! カタブツ! ボクネンジン!! その仏頂面を何とかしろ!!”

 とうとう近くまでやって来たギメリックの、憮然とした顔と力の入った握りこぶしを見て、レスターはニッと笑った。
「どうやら通じたみたいだね?」
「お前は……また喧嘩でも売るつもりか?」
「いや、だって一方通行なんて面白くないからさ。ぼくの方では君に届いたかどうかもわからないんだから、せめて君の反応を見て確かめようと思って……ははぁ、その様子だと、かなりクリアに聞こえたんだな。めでたいことだ」

 ギメリックの唇がますますへの字に折れ曲がった。
「めでたいのはお前の頭だろう。この、年中無休のお祭り男が!」
「おぉっ?!」
 レスターは目を丸くして驚いてみせた。 が、すぐに口元を緩ませてニヤニヤする。
「何と!君もずいぶん口が達者になったもんだ。誰のおかげだろう?誰の?……ところで、ぼくを『お兄様』と呼ぶ覚悟は出来たのかな?」
「うるさいっ! 何で俺が……!!」

「あの〜……」
延々と続きそうな二人の掛け合いに、ウィリアムが苦笑しながら割って入った。
「そろそろ皆が起きてきますが……」

 見ると確かに、眠っていた仲間たちがチラホラと動き出している。
「ああ」
「ん、それじゃあウィリアム、出発しようか」
「ちょっと待て」
 ギメリックの見たところ、傭兵たちはレスターに心酔している。彼が偵察に行くと知れば、ついて行くと言い出す者もあるはずだ。人のことは言えないが、レスターも1人だとどんな無茶をやらかすか、わかったものではない。歯止めは複数あった方が良い……。

「皆に一言、断ってから行け」
「……」
 レスターは黙って、こちらへ集まって来ようとしている仲間たちを眺め渡した。そして彼らの方を向いたまま、低く言った。
「……なぁギメリック。もし、万が一の時は、犠牲は少ないほどいいと思わないか?」

“全く、魔力もないくせに、どうしてこうも人の考えを見透かすんだか……”
と思いながらギメリックは言った。
「バカなことを。何もないと思うから行かせるんだ」

「……まぁね。もちろん、ぼくだって、そうであって欲しいと思ってるよ。この山にアイリーンが捕われているとしたら、戦力になる魔力保持者が誰も近づけないんじゃ、お手上げだからね」
 レスターは少し笑って、諦めたようにため息をついた。
「大将は君だ、好きにするさ」

“さっさと済ませて、早く帰って来い……”
「あれ?……君、ずいぶん可愛い表情(かお)をするようになったねぇ。お兄様が側にいないと寂しい?」
「なっ……!!」
「わかったわかった。しばらくの間だ、辛抱するんだよ」

 集まって来た仲間たちは、ギメリックがレスターの胸ぐらを掴もうとしているのを見て、まさか喧嘩の続きを一晩中していたのでは……と、あぜんとした。ウィリアムが「まぁまぁ」と割って入り、何とか場を収める。
 しかし長年、主人レスターの元でその性癖を見て来たウィリアムは、心の中で密かにつぶやいていた。

“お気の毒に、ギメリック様……こんなに気に入られちゃって。でも覚悟しておいた方がいいですよ。この人のこの性格、たぶん一生、治らないでしょうから……”



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