薄明宮の奪還 更新日:2015.01.07


 死が二人を分つまで

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5

「勝負あった!!」
 長い長い戦いだった。二人とも、体力の限界だったのだろう。お互い、次第に足取りすらおぼつかなくなる中で、よろめいたギメリックの脇腹をレスターの木刀が払った。
 ルールで勝ちとされる、致命傷になるほどの攻撃ではなかったが、あまりにも長い戦いに、これ以上は無理だとユリシウスが判断したのだ。
 こうして一応、レスターの勝ちとして決着はついたのだった。

 疲れ切った二人は、地面に倒れこんだ。
仰向けになり、しばらく黙って荒い息を吐いていたギメリックが、絞り出すような声で言った。
「お前……手加減していたな、あの時……」
「……あの時?」
 並んで寝転がっているレスターも、まだ息が整っていない。目を閉じて苦しそうに胸を上下させていたが、やがて言った。
「ああ……初対面の時ね」
 二人が手合わせをしたのは、これが初めてではない。一瞬だったとはいえ、以前にも一度、剣を交えたことがある。(※注1)

 レスターは目を閉じたまま、笑みを浮かべた。
「当然じゃないか。相手の技量もわからないのに、いきなり本気で斬りかかるわけに、いかないだろう……殺し合いじゃあるまいし」
「……」
 ギメリックは奥歯を食いしばった。あの時のレスターの力とスピードを、まんまの技量と思い込んでいた自分のうかつさにも腹が立つ。が、やはり、してやられたという思いが拭えない。
“くそっ、食えない奴だ……わざと自信なさそうに振る舞っておいて……。負ければおとなしく引き下がるだろうと乗ってやったのに、何てことだ……まんまとはめられた”

「……大丈夫ですか?」
 地面に転がったまま動こうとしない二人に、ユリシウスが声をかけてきた。
「ああ……何とかね。ご心配なく」
 レスターはゆっくりと半身を起こして片膝を立て、いかにも嬉しそうにギメリックを見下ろした。
「じゃ、約束だ。ぼくがついていくことに、文句はないね?」
“ないわけないだろう!!”
 心の中で叫んだギメリックだったが、勝敗に文句があると取られるのは癪に障る。潔く負けは負けと認め、約束は守らねばならない。
「……好きにしろ!!」
 ギメリックは立ち上がり、捨て台詞を残して歩き始めた。しかし、どうにも腹の虫が収まらない。

 レスターも彼の後を追って、心配そうに見守っているアイリーンたちの方へと近づいた。
 ギメリックはアイリーンのそばを通る時も、憮然として前を向いている。しかしレスターはもちろん、彼女に笑顔を向けて言った。
「大将のお許しが出たよ、これでいいね?」
「……」
 アイリーンは何と言って良いかわからず、遠ざかっていくギメリックの背中を振り返った。

 その時。
「わっ!……わわわわっ?! なんだなんだなんだ?!」
 突然、レスターが飛び上がり、そばにあった大きな岩にしがみついた。
 彼のあまりの慌てように、何事が起こったのかと、皆で辺りを見回す。が、特に変わったものは見当たらない。
「お兄様、どうしたの?」
「み、水だ!! 地面が消えた!!」

 アイリーンが魔力の視覚で見てみると、レスターに見えている風景が目に飛び込んできた。
 下は青々とした一面の水だった。地面が、深い湖の水面に置き換わったかのようだ。岩や木や灌木は、もとのままその上にあるのがシュールだった。
「ど、ど、どうなってるんだっ?! アイリーン、早くなんとかしてくれっ!!」
 レスターは岩にしがみついたまま、青ざめた顔に冷や汗を浮かべ、叫んでいる。
 アイリーンは思い出した。レスターが子供の頃溺れかけて以来、水が苦手だと語ったことを。(※注2)
「お兄様、落ち着いて! ただの目の錯覚よ!……ギメリック! やめて!!」
「そ、そうだやめろっ! 卑怯だぞっ!!」

 ギメリックがチラリと振り返った。仏頂面のままフンと一つ鼻を鳴らすと、建物の角を曲がって行ってしまった。
 レスターは再び見ることができた大地の上に座り込み、フーッと大きく息を吐いた。額に手をやってうつむき、肩を落とす。
「……あいつ、聞いてたんだな……まいった。まさか弱みを握られてるとはね……」
 ハァ、とアイリーンもため息をついた。
”この二人、うまくやっていけるのかしら……先が思いやられるわ……せっかく仲良くなってもらおうと思ったのに。やっぱり無理なのかしら……”



※注1:第1部ー第3章ー4.旅立ち アイリーンがアドニア城を出奔した時です。あの時ギメリックは、エリアードに化けていましたが。

※注2:第1部ー第3章ー1.冤罪 投獄されたアイリーンを助け出そうと、真実を聞き出すためにレスターが彼女に打ち明け話をした時です。ギメリックは石の力が彼女に移ってしまったため、まだ彼女をどうするか決めかねて、周りをウロウロしてたんですね。……いや、それだけじゃなく、もうすでに彼女とレスターの仲が気になって仕方なかったのかも。。。( ̄∀ ̄*)ニヤリ

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