薄明宮の奪還 更新日:2012.05.19


 死が二人を分つまで

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3

 ギメリックは、今日に限って事前に先客がいないか確かめるのを忘れたことを後悔した。つい気が焦って、いつものように慎重にではなく、一目散にこの部屋に飛び込んで来てしまったのだ。たまたま、カーラも控えの間にいなかった。

 どうしてもアイリーンと膝を詰めて話さなければならない用件ができたため、これを機に、先日の自分の言動を謝ろうと考えたのだが……レスターとアイリーンの抱擁を目の当たりにして、ムカムカと腹が立ち、そんな思いはどこかへ吹き飛んでしまった。
 こうなったら、さっさと用件だけ済ませてしまうに限る。

 ギメリックはレスターを無視し、相手にしない様子で、アイリーンに向かって言った。
「アイリーン、お前からも彼らを説得してくれないか?」
「え?」
「ソルグの村の者たちだ。このまま我々とエンドルーアへ向かうつもりらしい」
「……それは……」
アイリーンが困ったように瞳を曇らせる。
「ああ、危険すぎる、連れて行く訳にはいかない」

 石の主としてのアイリーンの力は、まだ未熟だった。敵の動向もどうなるかわからない今の状況で、魔力保持者とはいえ戦士ではない一般庶民の彼らを、戦闘に巻き込むことはできない。
「……わかったわ。他の人たちと一緒にフェンリルで待っていてくれるよう、頼んでみる」
 ギメリックは一つうなずくと、これで用は済んだとばかりに、部屋を出て行こうとした。その背中に向かって、レスターの声がかかる。

「ぼくはついて行くことになったから、よろしくね」
 ギメリックはサッと振り向き、眼光鋭くレスターを睨んだ。
「何だと? バカを言うな。お前には関係ないだろう」
「関係あるかないかは僕が決める」
「魔力を持たない人間など、足手まといだ」
「そうかな? 敵の出方によっては常人の剣士も必要なんだろう? 剣の腕なら、ぼくだってそう捨てたもんじゃないと思うんだけど」
「俺は剣も扱える、加勢は必要ない」
「……じゃあ、一試合、お手合わせ願えないかな? 負けたら諦めるよ。ぼくだってこのままじゃ引き下がれない。大事な妹をまかせるんだ、それに見合う男かどうか試させてもらわないとね」

 そう言ってレスターは見せつけるように、再びアイリーンを抱きしめて彼女の髪に頬をすりつけた。アイリーンは困って彼から身を離し、
「お兄様……やめて、危ないわ」と訴えるように言った。
“どっちを心配してるんだろう……?”
そう思いながらレスターは悲しそうな顔をして見せる。
「君、ぼくが負けると思ってるね?……キズつくなぁ……」

「……いいだろう。いつにする?」
 仏頂面のギメリックの言葉に、レスターは笑顔で答えた。
「立会人と、木刀がいるね。ぼくが頼んでおくよ。明日の朝一番にしよう」

 再びノックの音がして、今度は花束を抱えたユリシウスが入って来た。少し驚いた顔に、いつもの柔和な微笑みが浮かぶ。近付いて来ながら、彼は言った。
「お二人がお揃いとは珍しいですね。今日は何か?」
レスターがうなずいて言った。
「あぁ、ちょうどいい。あなたにお願いしたいことが……」

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