薄明宮の奪還 更新日:2013.7.21


第5部 エンドルーア

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 第2章

19.喪失-5


 カーラには何が起こったのか分からなかった。
心が、理解することを拒絶していた。
 ただ滂沱と流れる涙だけが、それを知っている。
かすむ目が呆然と見下ろしているのは、婚約者、ゲイルの遺体だった。

 何もかもが一瞬のように思える。
カーラたち総勢12人は、ギメリックの体を守りつつ、彼の帰りを待っていた。
 目立たないよう日暮れ前に火を焚いて、夕食の支度にかかった時。
突然、切迫したゲイルの声に呼ばれ、カーラは振り向いた。
立っていたのは、見上げるような異形の姿。
潰れた片目から血を流し、片手も失っている。
そう見て取った直後、強い力で殴り倒されていた。
さらに襲って来ようとする暦司に、ゲイルが剣を構えて突っ込んで行った。
同時に魔力保持者たちが力を合わせ、攻撃を仕掛ける。

 手負いであるにも関わらず、暦司の動きは信じられないほど素早かった。
その上、腕力も魔力も凄まじい。
武人たちは剣を振るい、魔力保持者たちは魔力で攻撃し続けた。
やっとのことで倒した時には……味方にも甚大な被害が出ていたのだ。

 最初の衝突で致命傷を負っていたらしいゲイルは、戦いが終わったとき、すでに事切れていた。
レモールは、虫の息だった。
「若君、……お心のままに、行かれませ」
主人ユリシウスに見守られ、一言つぶやいて黄泉路へと旅立って行った。
そして魔力保持者の中で一番弱かったロトも、魔力の攻撃により精神を焼き切られ、帰らぬ人となった。

 残った9人もそれぞれにダメージを受けていた。
魔力保持者のうち、ポルとイェイツは極限まで魔力を使い果たし、深い眠りに引き込まれている。
武人たちもそれぞれに傷を負っていたが、幸い命に関わるほどではなかった。

 ほとんど何の反応もしないカーラをそっとしておき、残った者たちはお互いに手当をした。
その後、力を合わせて死者の亡骸を土に埋めようとすると、カーラは叫び声をあげて泣き崩れた。
それをなだめて作業を終えると、日はとっくに沈んでいた。

 暗い空に満天の星が瞬いている。
ギメリックはまだ帰らない。ポルとイェイツも眠ったままだった。

 こんなとき、一番心配し、世話を焼くカーラは、今はまだ茫然自失の態だった。
残った魔力保持者であるダンとノエルは、不安に曇る顔を見合わせるが、なす術がない。
彼らには、果たしてギメリックがタイムリミットに間に合うように帰ってくるのか、そしてポルとイェイツに何をしてやればよいのか、分からなかった。

 ただ時間だけが過ぎて行く……。
夜明けはまだ遠かった。


 
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