薄明宮の奪還 更新日:2013.6.22


第5部 エンドルーア

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 第2章

18.喪失-4


 シルヴィアの手に輝く杖が現れた。
魔力による殺傷力を最大限に高めるため、目に見えるよう形作られた武器だ。
彼女が杖を振りかざし、迫ってくる。

 ギメリックはこれを最後と、心話で呼びかけた。
“母上……!! あなたが殺そうとしているのはあなたの息子、私です!!ギメリックです!!”

 突然シルヴィアが動きを止めた。
瞳に狼狽の色が浮かぶ。
クレイヴが叫んだ。
「何をしている! とどめを刺せ!!」

 ギメリックは一瞬、確かに彼女がハッキリと意志を持って自分を見たと思った。
次の瞬間、振り返ったシルヴィアはクレイヴの胸に杖を突き立てていた。

「……っ!!……うぅ…よくもこの私を……」
 肺から上がってくる血を吐きながら、クレイヴはよろめいた。
二人の魔力から解放されたギメリックが体制を立て直し、彼らの間に割って入ろうと一歩踏み出す。
しかしクレイヴの反撃の方が早かったのだ。
引き抜かれた杖が、今度はシルヴィアの体を貫いた。

「母上っ!!」
倒れた彼女のそばに跪いたが、実体のない今のギメリックは、彼女に触れる事が出来ない。
クレイヴの姿はどこかへ消えていた。

「しっかり……しっかりしてください、母上!!」
シルヴィアはうっすら目を開け、ギメリックを見上げた。
紫の瞳から、涙がこぼれ落ちる。
「私を、許して……」

 ギメリックは、溢れてくる想いで胸が塞がり、息を吐く事すらうまく出来なかった。
震える唇で、懸命に言葉をつむぐ。
「何を謝られるのです……あなたは何も悪くない。これは全て、私が招いたこと……父上も私のために亡くなられた。その上、母上までも、このような目に……わ、私は何と言ってお詫びを……」

 シルヴィアはそっと手を挙げ、首を振って彼を黙らせた。
「違うの……私がもっと、あなたのために母親らしく愛を注いでいれば……」
大きく喘ぎ、目を閉じる。
「ごめんなさ…い……私は、とても……臆病だったの……許して、今までのこと……全て……」
ギメリックは喪失の予感に、声を詰まらせた。
「……わかっています。何も言わないでください……」

 シルヴィアは再び目を開けた。そして微かな笑みを浮かべた。
「ありがとう……ギメリック。……私の子……愛して、いたわ……」
 眠るように息を引き取ったシルヴィアの体から、すうっと離れた魂が、静かに傍らに佇んだ。
想いを込めた眼差しで、ギメリックを見つめる。
「さぁ、お別れです。最後にあなたに、キスさせて……」

  彼がその手をそっと握り、彼女の唇に頬を寄せる。彼女は彼の耳元で、微かな声で囁いた。
「幸せになりなさい……」


 
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