薄明宮の奪還 更新日:2012.04.25


第5部 エンドルーア

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 第2章

11.遭遇-2



「隊長、例の『シャウト』ってやつを使えないんですかぃ?」
傭兵の一人が聞いて来た。
「ああ……あれは最後の手段だ。今は使えない、敵にこっちの居場所を知られてしまうらしいから」
レスターが答え、その後一行は、黙々と先を急いだ。

『シャウト』とは、魔力保持者同士が使う心話に似た、思念を飛ばす術のことだ。魔力を持たない常人でも、非常に強い心の持ち主なら、練習すればかなり遠くまで、魔力保持者へメッセージを送ることが出来るようになる。
 ギメリックからそう説明され、試してみたところ、苦もなくそのコツを掴んだレスターだった。

 ただそれは、送信のみで一方通行だ。常人には、送られた思念を読むことは出来ないからだ。また、特定の個人に向けてのみ発信するというわけにもいかず、届く範囲にいる魔力保持者全員に伝わってしまう。

“ギメリックは、危なくなったら呼べと言っていたが……呼んだって仕方ないじゃないか?”と、レスターは思っていた。
“魔力保持者にとって死地であるこの山へ、まんまと敵の思惑通り、呼び寄せることになるんじゃ……結局、誰も助からない。アイリーンを助けることも出来ない……”

 レスターの心はいつになく沈んでいた。
この山に敵が潜んでいるとわかった今となっては、魔力保持者でもこの地に足を踏み入れられる“何か”がある、ということだ。その“何か”を見つけない限り……アイリーンの救出は不可能に近い。何の手だても持たずにギメリックたちがここへ来るのは自殺行為だし、常人である自分たちだけで魔力を持つ敵と戦うこともまた、同じく自殺行為に等しいからだ。

“くそっ……いったい、どうすれば……”
レスターは奥歯を噛み締めた。
そのとき。

「おのれっ……!!」
「出たな! 化け物!!」
傭兵たちの叫び声に、“敵襲か?!”と振り向いたレスターの目に、信じられない光景が映った。彼らが互いに罵り合いながら、同士討ちを始めたのだ。

「おい! いったい……?!」
見るとウィリアムも彼らに混じり、6人が2人ずつ3組になって戦っている。
皆、すさまじい殺気だった。本気なのだ。
「どうしたんだ!!やめろっ!!……ウィリアム!!」

「ほう……暗示が効かないのか」
耳元をかすめる不気味な声。
レスターは瞬時に反応した。
サッと身を引きながら、剣を構えて振り向く。

思った通り、そこには異形の姿があった。
話には聞いていたが、レスターが実際に目にするのは初めてだ。
折っていた腰を伸ばすと、背丈はレスターの2倍ほど。
見上げるような巨体は、全身が黒っぽい羽毛のようなもので覆われている。
赤く爛々と光る目を細め、それはニタリと笑った。

「……面白い。では、お前の相手は私がしてやろう」
巨大なかぎ爪のついた腕をゆっくりと振り上げる。

レスターは冷たい汗を感じながら、冷静になろうと努めていた。

こいつはアイリーンの敵なのか?
ならば……
倒すことがかなわないまでも、たとえ一太刀でも浴びせ、わずかでもこいつの力を削ぐことができるなら……
それはアイリーンを助けることに繋がるかも知れない。
そうであってこそ、ここまで追って来た甲斐があるというものだ。



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