薄明宮の奪還 更新日:2010.09.06


第5部 エンドルーア

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 第2章

4.揺れ惑う心-1



 何も見えない。
アイリーンの意識は闇の中を漂っていた。
悲しみに沈む心で、彼女は問いかける。

“お母様……教えて、私とギメリックは本当に兄妹なの……? お母様は実のお兄様と愛し合ったの? だったら私は……アドニアのお父様の子供ではないの?”

耐えられない、と思うほど、アイリーンは悲しかった。
ギメリックと結婚できないことも……アドニア王が実の父ではないと考えることも。

アイリーンは小さな子供のように、声を上げて泣いた。

と、何かがそっと髪に触れた気がした。
顔を上げると、淡く輝く銀の光に包まれて、ティレルが立っていた。
一目で分かる、それは彼女が幼い頃から知っている、優しい瞳をしたティレルだった。

「ティレル……良かった……」
抱きしめようとして、アイリーンはハッと目を見張る。ティレルの体は半分透き通っていた。その存在が薄れ、消えかけているのだ。

「……!! いやっ!! ティレル、行かないで……私を置いて行かないで」
涙を流すアイリーンの顔に、ティレルはそっと両手で包み込むようにして触れた。

「行かないよ……どこにも行かない。でもぼくはもう、ぼくじゃなくなる……今までのぼくでは」
アイリーンは涙に濡れた瞳を見張り、彼の顔を見つめる。
「それは……あなたが……」
「そう、分裂していた魂が元に戻りつつあるんだ。もともと一つだったぼくたちがまた一つになる……ぼくは消えてなくなる訳じゃない、だから悲しまないで」
「……ティレル!! でも、でも……」

 首を横に振りながらアイリーンが言おうとすることを、ティレルは察してうなずいた。少し気がかりそうに瞳を曇らせる。
「ごめんよ……ぼくの力が弱くて、あいつはほとんど今まで通りひどく冷酷に見えるだろう。でも信じて欲しい、あいつの中に吸収されても、ぼくの、君への思いは残るはずだ。もうすでにその兆しは現れている……彼は……ここへ君を連れて来たとき、泣いている君を見ていられなくて、君を眠らせたんだよ……」

 アイリーンはうつむき、激しく首を振った。
「だけど……私との、こ、子供が欲しいって……もう、手遅れかも……」
「大丈夫、君は今、石を持っていないね? もしも君が魔力を失えば、ギメリックが石の主になってしまうと、あいつは気がついた。そうしたら勝ち目はなくなる、だから先に彼を殺そうと……」

「ダメよ!! そんなことさせないわ!!」
アイリーンは我知らず口走っていた。ティレルは微笑んで彼女をみつめ、ささやくように言った。
「いいんだよ。君なら出来る、あいつを……ぼくたちを、倒すんだ」
「!!……いや……!! そんな……出来ないわ、ティレル……」
アイリーンが再び激しく首を振る。瞳から新たな涙があふれた。

「君とギメリックと、世界のためだ。いいかい、新月の日になれば、君の魔力がピークを迎え、あいつの魔力はなくなる。その時がチャンスだ。でも、あいつもそのことは知っているから、用心して何か策を考えているはず……気をつけて……」

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