薄明宮の奪還 更新日:2010.08.25
おまけ追加:2012.04.28


第5部 エンドルーア

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 第2章

3.喧嘩-3



「レスター様、まさか、お一人で行くつもりじゃないでしょうね? もちろん私もお供いたしますよ、誰が何と言おうとも!」
そばにいた見張り役はウィリアムだった。どうやら二人の話に聞き耳を立てていたらしい。

 レスターは予期していたらしく、困ったように肩をすくめただけで何も言わなかった。代わりにギメリックが口を開く。
「一人だろうが二人だろうが、本当に敵が潜んでいれば危険に変わりはない」
「うん、だから行くのは偵察が目的さ。魔力保持者相手に勝ち目のない戦いをしても、アイリーンを救い出せないんじゃ意味ないからね。もしも敵を見つけたら、すぐに君に知らせる、それでいいだろう?」
「……」
 ギメリックが何か考え込む間に、ウィリアムが近づいて来てレスターに食ってかかった。
「レスター様! また私に伝令の役目をさせるつもりですね?!」

“ちぇ……バレたか”と思いつつレスターは笑顔を作り、立っている彼を見上げた。
「まだ何もわからないんだから、今からそんな心配しなくても……」
 ウィリアムはレスターの前にひざまずき、つかみかからんばかりにして言いつのる。
「いいえ! 今のうちに宣言しておくんです!! 今度という今度はどこまでも、私はあなたの側を離れませんからね!!」
「しかしねぇ、二手に分かれるとなると通信手段が問題で、それにはお前が……」
「嫌です、絶対に!! もし敵を見つけたらその時点で、首に縄をかけてでも一緒に山を下りますから!!」

 ギメリックがウィリアムに向かってうなずいた。
「ああ、それでいい。だが確かに、通信手段は必要だ」
そこで彼はレスターに向き直った。
「たぶん、お前なら出来ると思う。万が一の時は、心で俺を呼べ」
レスターは神妙な顔つきでギメリックを見つめ、それから言った。
「悪いけど、ぼくはノーマルだ。いまわの際に男の名を呼ぶようなマネはしたくないね」

 今度はギメリックが絶句する。
「……バカか!! そういう話ではない!!」
顔を赤らめ、握りこぶしを震わせるギメリックを見て、レスターはクックッと可笑しそうに笑った。
「そんなに真に受けなくても……冗談だよ」
「……!」
「しかめっ面ばかりしてると、眉間のしわが定着しちゃうよ」

 ギメリックはサッと立ち上がった。落ち着きなくその場をうろつくような仕草をし、やがて立ち止まって気を静めようとするかのように首を振る。
「……お前は……よくもこんな時に脳天気でいられるな……」
 アイリーンのことが心配ではないのかという口ぶりに、レスターは真顔になってギメリックを見上げた。その気配を察し、ギメリックが苦しげにつぶやく。
「すまん……」

 レスターは苦笑を浮かべ、穏やかに言った。
「君が今どんな気持ちか、わかるつもりだよ。今さら恨み言を蒸し返すつもりはないけれど、君が彼女を連れ去って行ったあの時は、ぼくもいささか参ってたからね」
 当時の様子を知るウィリアムが、ウンウンとうなずいているのを横目で見ながら、レスターは続けた。
「でもあの時は何も事情がつかめなくて、彼女の生死すらわからなかったけど、少なくとも今は……あの子が、死んだり魔力を失ったりすれば、君にはわかるんだろう?」

 ギメリックはハッとし、自分の首にかけたペンダントの石に手をやった。
「……そうだ……この石が主を失えば、おそらくすぐに俺に力が流れ込んで来るだろう……」
 今は石の力が、彼女に属していることだけが頼りだ。それは彼女が生きて魔力を保っている証なのだから……。

 かつて一度は、彼女を殺してでも手に入れたいと思った石の力。
今はそれと正反対のことを、激しく願っている事実に皮肉を感じずにはいられない。これも自分が犯した罪の報いなのだろうか? 心の平安を得る事など、やはり自分には永遠に許されないことなのか?
……いや、自分が罰を受けるならともかく、彼女が命を落とす事など、あってはならないはずだ。

 軽く額をはたかれてギメリックが我に返ると、いつの間にかレスターが隣に立っていた。自分の眉間を指差し、笑って言う。
「ここ、またしわが寄ってるよ」
「……」
 ウィリアムもレスターの後ろに控え、心配そうにギメリックを見守っていた。
「ギメリック」
 今までと調子の違う声で呼ばれ、ギメリックはレスターの顔を見た。

「たとえ我々のうちの、誰に何があろうとも……君にはシッカリしていてもらわないと困る。忘れるな、アイリーンを、そして世界を救えるのは君だけなんだから」

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