薄明宮の奪還 更新日:2009.02.11


第4部 リムウル〜エンドルーア

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 第4章

11.エンドルーアへ-1



「レスター様! レスター様! 大変です、起きてください!!」
「……うぅ? あ"〜……」
 ベッドの中でモゾモゾと仰向けになったレスターは、目を閉じたまま、激しく眉間にしわを寄せた。差し込んでくる朝日が、瞼を通していても目に眩しい。彼は片腕を上げて顔を覆い、光を遮った。

……気分は最悪。頭がガンガンする。
“このぼくが二日酔いとは……あぁ情けない”
「頼むよウィル……もうちょっと……」
「いいんですか? アイリーン様が何者かにさらわれたと、皆、大騒ぎしていますよ」
「……何っ?!」
飛び起きたレスターと、のぞき込んでいたウィリアムの額が大きな音を立ててぶつかった。
「痛っ……!!つつ……」
「……す、すみません……」
互いに額を押さえてうずくまったのもつかの間、レスターはヨロヨロしながらもできるだけ急いでベッドを降りた。慌ただしく身支度をしながら、険しい表情で質問を投げかける。

「さらわれたって……?」
「朝、いつもの時間に侍女がお部屋へうかがったところ、アイリーン様の姿はなく、代わりにギメリック様が床に倒れていたそうです」
「ギメリックが?!……怪我は?」
「外傷はなく、今のところ命に別状もないと……ですが、目をお覚ましになりません」
“いったい……何があった?”



 二人がアイリーンの部屋へ駆けつけてみると、すでに主立ったものは皆、一様に暗い表情をして集まっていた。ギメリックがベッドに寝かされている。顔色がひどく悪い。
「これは……」
説明を求めるレスターの眼差しに応えて、カーラが口を開いた。
「ギメリックはたぶん、魂の飛翔を使い、彼女の行方を探しているのだと思います。見てください……」

 カーラが指差したサイドテーブルの上には、昨夜アイリーンが髪に飾っていた黄バラが置かれていた。そしてその間に、金の巻き毛と、真っすぐな銀色の髪が一房ずつ、絡めるようにして置いてある。
「彼はこれを見てアイリーン様をさらったのがティレルだと知って、魔力の気配を頼りに追って行ったのではないかと……」
「……だけど、大丈夫なのか? 確かその術にはタイムリミットがあったはずだが……」
「ええ、私たちみんな、それを心配しているんです。もしも、彼がこのまま……」
カーラはその先は口に出すのが耐えられない、というように言葉を濁した。一同の間に、重い沈黙が落ちる。

 ギメリックとアイリーンが、大陸の和平にとっていかに重要な存在であるか……今更ながらに、皆、強く感じていた。二人を失っては、誰もエンドルーアの脅威から身を守ることは出来ない。カーラは祈るような気持ちでギメリックを見下ろし、心の中で呼びかけた。
“ギメリック……無茶はしないで。あなたにまで、もしものことがあったら……この世界はどうなるの?”

「それで、どのぐらい、持つものなんだい?」
「わかりません。私たちの中でこの術を使える者はいませんから……」
「……そうか……信じて、待つしかないようだな。……彼はいつ頃出て行ったんだろう」
つぶやくようなレスターの問いかけに、ユリシウスが答えた。
「兄の話によれば、姫を部屋へお連れになった後、彼は一人で宴に戻ってきたそうです。そして『彼女との話し合いの結果、自分が王位と石を受け継ぐことになった』と、キッパリ宣言されたとか。兄は宴が終わってからも彼と話し込み、今後について色々と相談し合ったと言っています。彼がそれからここへ足を運んだとすると、ほとんど明け方に近かったのでは、と思いますが……」

“明け方……ならばまだ望みはあるのか? くそっ……!!魔力のこととなるとお手上げだ! 何の助けもできないのがもどかしい……”
 レスターは辛い気持ちを振り切るように踵を返すと、ベッドの側から離れた。窓に近寄り、覆いかぶさるように体を預けて、視線を外に向ける。しかしその目は何も見てはいなかった。

“なぜ彼女から目を離した? ギメリックに彼女を託して……肩の荷を下ろしたつもりでいたのか?!”
 虚しさに溺れ、情けなく飲んだくれていた自分に腹が立ち、気の済むまで壁に頭を打ち付けたいような気分だった。

 魔力保持者の特異な能力と体質について、所詮、自分は門外漢だ。理解の範疇を越えたこと……彼女を本当に理解することはできないと、そんな思いが自分の中にあったことは否めない。彼女をあらゆる意味で助けられるのはギメリックしかいない。それがわかっていたから、悔しいという感情よりも冷静な判断がレスターに身を引かせたのだ。

 しかしそれでも、エンドルーアへと向かう彼女とギメリックに、レスターはついて行くつもりだった。真の平和の中で、彼女が本当に幸せになるのを見届けるまでは、と……。そのために、微力ながら自分にもできることがあるはずだと考えていた。けれど……こうなって改めて彼は、自分の無力さに歯噛みをする思いだった。つい先日、渋る二人を説き伏せて、半ば強引な手段でエンドルーアへの同行を認めさせたレスターだったが……今はその自信がぐらついている。

“もし、ギメリックに再び拒絶されたら……引き下がるしか、ないのかも知れないな。足手まといになるぐらいなら……”
 ただ、たとえ一人になっても、遅れてでも、秘かにエンドルーアへ向かうつもりではあった。とにかく自分がそうせずにはいられないだろうことは、わかりきっていた。

“頼む、アイリーン……!! 無事でいてくれ……!!”

目を閉じ、強くそう念じた時、カーラが声を上げるのが聞こえた。
「あ……ギメリック!!」



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