薄明宮の奪還 更新日:2008.11.03


4部 リムウル〜エンドルーア

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 第4

8.石の主-3



「双子……?!」
 今度はギメリックが驚く番だった。彼は思わず身を引いて、アイリーンの顔を見つめた。
「……どういうことだ?」
アイリーンが困ったように首を振る。
「私にも、詳しいいきさつはわからないの。でも間違いないわ、私たちは魔力を分け合っているのよ……ああ、だけど、そんな……」
彼女の顔がクシャリと歪んだ。
「……そんなことって……あると思う? 私がクレイヴの娘で……私の魔力も、クレイヴの血によるものだなんて……」
「……馬鹿な!!」
「だって、ティレルの父親がクレイヴで、私とティレルが双子なら……そうなるでしょう?」
 襲ってきた激しい恐怖と嫌悪感に打ちのめされ、アイリーンは両手で顔を覆った。

 自分がアドニア王の子供ではない……兄から初めてうわさを聞かされた時には、そんなはずはないと信じていた。ルバートに、魔力を持たなかった母から魔力を持つ自分が生まれたのは、父親が魔力保持者だったから、と言われても……本気にはしなかった。ごく単純に、結婚しなければ子供は出来ないと思っていたからだ。
 けれど、過去を旅した際に目撃した光景から、自分とティレルが双子の兄妹だと悟ってしまった時、その疑いは恐ろしい現実感を伴ってアイリーンに迫ってきた。そして新しい事実を知った今……。

“儀式……暴力? 結婚しているかどうかに関係なく、望まない相手の子供を身ごもることもある……それじゃ私の母様は、エンドルーアで、クレイヴに……? だって、2人は兄妹なのよ……そんなことって……”

 震え出したアイリーンの肩を、ギメリックが抱きしめる。
彼にとっても、あまりにも衝撃的な知らせだった。半ば呆然としていた彼だったが、アイリーンの取り乱した様子を見て、とにかく慰めてやりたいと思った。そして、自分が冷静にならなければ……と頭を冷やして考える。

「……心配するな、きっと何かの間違いだ。その証拠に、クレイヴはお前のことを何も知らない様子だったではないか。もしもお前がクレイヴの娘なら、お前の魔力について奴が知らないはずはないだろう? だから……大丈夫だ……不完全な情報を気に病んで、いらぬ悩みを背負い込むことはない。今は深く考えるな」
 繰り返し彼女の髪を撫でながら、穏やかな声で言って聞かせる。やがて彼女の体の震えが止まり、彼女の安らいだ気分が彼の心にも流れ込んできた。

 しばらくすると、落ち着きを取り戻した声でアイリーンが言った。
「……本当のことが、知りたい。ティレルなら、知っているような気がする……私に会いに来てくれていたティレルなら。でも、彼が今どうなっているか心配なの。……やっぱり……」

 アイリーンは彼の腕を解き、彼にもたれかかっていた姿勢を正して背を伸ばした。ベッドに座っている状態とは言え、頭を起こし、まっすぐな瞳でこちらを見据えてくる彼女に、ギメリックは厳かな気品と威厳を感じて目を見張った。

「できるだけ早く、あなたに石の主になってもらうべきだわ。私の体力が回復して、石の力をコントロールできるようになるまでと言っていたら、エンドルーアへ向かえるのはいつになるかわからない。その間にも、罪もない人々が、クレイヴやティレルに苦しめられているかも知れないのだもの……ティレルを助けるためにも、のんびりしてはいられない。あなたなら、すぐにでも、石の力を自分のものにして、世界で一番の魔法使いになれる。だからお願い……」

 差し伸べられた彼女の手を取って、ギメリックは再び彼女を胸に抱いた。彼の胸に顔を埋め、アイリーンが小さな声で言う。
「私を、あなたのお嫁さんにして」
「……わかった。お前がそう言うなら、俺も、もう迷わない。お前が回復したらすぐに、……そうしよう」

 安堵と不安が入り交じった複雑な思いを感じながら、アイリーンは囁くように言った。
「でも……ねぇ、もう私を一人で置いて行ってはイヤよ?」
「もし、そんなことになったら……」
ギメリックは低く笑った。
「たぶん、先に音を上げるのは俺の方だな……」
 彼の指がアイリーンの顎にかかり、そっと持ち上げる。落ちてきた口づけを受けて、アイリーンは目を閉じた。

 急にまた、胸の鼓動が苦しいほど早くなる。もう何度目かもわからないほどなのに……キスされる度に、やっぱりアイリーンはひどく緊張してしまうのだ。
 そんな彼女を可愛く思いながらも、ギメリックは少し心配になって声をかけた。
「そんなに硬くなっていては、“儀式”の時はもっと辛いぞ? 力を抜いて楽にするんだ。ほら……練習してみろ」
 ギメリックは先ほどと同じように彼女を押し倒し、その上に覆いかぶさった。両腕で彼女の頭を抱え込むようにして固定し、また唇を合わせる。

 何度も角度を変えて口づけをする間に、彼女が苦しがっているのはわかっていたが、どうしても止めることができない。
 しばらくして顔を離してみると、アイリーンは恥かしさと苦しさで真っ赤に顔を染め、うっすら涙の滲む目で切なげに見上げてきた。空気を求めてあえいでいる唇が、いつに似ず、悩ましいほど艶めいて色っぽい。
“ヤバイ!……これ以上やったら、抑えがきかなくなる……”
  ギメリックはとっさに彼女から顔を背け、パッと身を引いた。そしてそのまま、彼女の方を見ないようにしてベッドから降り、戸口へと向かいかける。
「俺は一旦、宴に戻る。このまま主賓が3人とも行方をくらませたきりでは、いくら何でもマズいだろう。後でまた……」

 後ろに引っ張られる感覚を覚え、ギメリックは振り向いた。アイリーンが両手で彼のマントの端を掴んでいる。うつむいているので表情は見えないが、耳も手も真っ赤だ。
「あのっ……あの……上手に、なるから……怒らないで……」
尻すぼみに小さくなって行く声が、震えている。

 自分のそっけない態度のせいで、腹を立てたと思ったのだろうか……。
彼女にとっては全てが未知の経験で、不安でしかたないのだ。そうと気づいてギメリックは、彼女への配慮が足りなかったという悔恨と、さらにつのってきた愛しさに、胸を詰まらせた。

 彼は彼女の脇にストンと腰掛けると、彼女の肩をそっと抱いた。
「怒ってなんかいない」
「……本当?」
壊れ物を扱うように、華奢な体を両腕で優しく抱きしめる。
「ああ。……焦らなくていい、徐々に慣れていけばいいんだ。……何なら毎晩、添い寝してやろうか?」
「えっ……?」
彼女がうろたえる気配に、ギメリックは面白そうに笑った。
「アドニアからソルグの村へと向かう間、お前のせいで俺がどれほど眠れぬ夜を過ごしたと思う? たっぷりお返しをしてやるから覚悟しておけ。……というのは冗談だ」
 彼女の前髪を分けると、おでこに軽くキスをする。

「無理をさせて悪かったな。まずは、お前の体を治すことが先だった。……そうだ。石を預かろう。ずっと、そうするべきだと思っていたのだが……すまない、ヴァイオレットの意志を考え躊躇してしまっていた……」




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