薄明宮の奪還 更新日:2008.05.30


第4部 リムウル〜エンドルーア

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 第3章

7.宣言



 それでも気に入らないものは気に入らないのだ。それにさっきは随分と親密そうに見えた……。
とは、さすがに言えず、ギメリックはただ無言を返す。

 そんな彼を面白そうに眺めていたレスターの顔から、やがて、すうっと微笑みが消えて行った。眼差しが冷ややかになり、朗らかで人なつこい印象が、怜悧な印象にとって変わる。

「わからないのは君の方だよ。彼女に愛されているのが他ならぬ自分だと、どうして気づこうとしない? いや、気づいていないとは言わせない、だけど君は彼女の想いに応える気がないんだ、だから気づかないふりをしてる。違うかい?」

彼女の想い……?
そして、自分の……?

 混乱の波がわっと押し寄せて来るのを感じながらギメリックは立ち尽くしていた。天頂近くまで上りつめた太陽から降り注ぐ光が、急に強まった気がした。
 眩しさにまばたきをする間に、レスターは再び塀に向かい、吹き付けてくる風に目を細めながら今度は遠く、眼下を見渡していた。

「なるほど確かに、彼女はティレルを想っている。でもそれはぼくや父に対する肉親への愛情と、なんら変わらないように見えるね、ぼくには」

 そう言うレスターの横顔は珍しく何の感情も宿しておらず、ひどく静かだった。

「……ぼくは彼女に借りを返しているところなんだ。だから、自分の気持ちなんか二の次でいい。彼女が君を想って幸せになるのなら、いくらでも協力するつもりだよ。だけどその想いが涙しかもたらさないのなら、ぼくはどんな手段を使ってでも君の手から彼女を奪い返す。そう、どんな手を使ってもね……」

 レスターは顔を上げ、ギメリックに向かって、意味ありげに微笑んだ。

「カーラから聞いたよ。女性の魔力保持者は、結婚すると魔力を失うそうだね。……ああ、彼女を責めないであげて欲しい。ほんの世間話のつもりだったんだ。ソルグの村から一緒にやってきたあの若者……ゲイルと言ったっけ? 彼といる時、二人があんまり幸せそうだったから、『結婚式はいつ?』って聞いたら彼女はこう言いかけた。『戦いが終わるまでは、魔力を失うわけにはいかないから……』ってね。すぐに気づいて困った様子になったから、ぼくはいかにも“とっくに知ってました”って顔をして安心させておいたよ」

 懐から小さな革袋を取り出し、レスターはそれに目を注ぎながら言った。

「さて、どういうわけかここに、何をされても目が覚めないぐらい強力な眠り薬がある。まぁ、君はぼくが何のためにこれを使ったか、覚えているだろうが。今度またこれを、彼女を救うために使うことだって出来ると、ぼくは考えているんだよね。例えば……彼女がぐっすり眠っている間に、ぼくが彼女への想いをとげてしまったとしたらどうだろう? 彼女の魔力は失われ、石の主である必要も、エンドルーアの王になる必要も、恐ろしい戦いに臨む必要もなくなるというわけだ。そうだよね? そうしてぼくは生涯彼女のために、秘密を守り通す自信もあるよ」

 過激な発言に似つかわしくない、穏やかな笑みを浮かべたレスターの顔を、ギメリックは睨みつけた。

……バカな。と思うそばから、こいつならやりかねない、という思いが頭をもたげる。かつて一度、自分もやろうとしたことだ。しかも、あれはまぎれもなく暴力で……そのため彼女をひどく怯えさせた。

 あの華奢な肩に、精一杯の責任を負おうとしている彼女を思えばこそ……そんな過酷な運命に彼女を留め置きたくはない。その気持ちは自分も同じだ。しかし……



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