薄明宮の奪還 更新日:2008.01.13


第4部 リムウル〜エンドルーア

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 第2章

1.迎え人たち



 アイリーンが目覚めてテントの外に出てみると、少し離れた場所の、向こう側にギメリック、そして手前にレスターとユリシウスが立っていた。

 昨夜ティレルが逃げた後、エンドルーア軍は自国の領土へと撤退して行った。リムウル軍は甚大な被害を受けながらも、何とか勝利を収めた格好だった。
 とにかく朝まで休もうという話になったとき、アイリーンがどのテントで寝るかを巡り一悶着あったのだが、結局、ほぼ危険も去ったということで小さなテントを調達してもらい、一人で休んだのだ。

 彼らはすぐにアイリーンに気がついた。レスターが笑顔で手招きをする。
3人とも長身だが、体格の良いリムウルの人々の間では小柄に見えていたユリシウスが、ほとんど背丈の変わらないギメリックとレスターの二人より、こうしてみるとほんの少しだけ背が高いようだ。

 アイリーンが寄って行くと、相変わらず無愛想なギメリックとは対照的に、レスターとユリシウスはにこやかに挨拶をする。
「やぁ、おはよう」
「おはようございます、姫。良い朝ですね」

「おはようございま……」
近づいたアイリーンを、レスターが大きく腕を広げて引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
「ん〜〜〜一晩も離れていて寂しかった、会いたかったよ!」
「……!!」
突然だったのでアイリーンは反応できずに固まってしまった。

「……アドニアのかたは感情表現が豊かなのですね」
ユリシウスは少々引き気味に、しかし笑顔でそう言った。ギメリックは黙って仏頂面で眺めている。
「……お兄様!!」
困惑したアイリーンに腕を押しやられ、レスターは悲しそうに言った。
「いいじゃないか……ずっと離ればなれだったんだ、その時の分までということで……」
「理由になってない!」
ギメリックが鋭く一言発すると、レスターは冷たく彼を見て言った。
「君、羨ましいのなら素直にそう言えば?」
ギメリックはムッとした様子で少し身を引いた。そして、くるりと背を向け足早に歩き出した。
「……行くぞ!」

「可愛くないね全く……」
 つぶやいたレスターに、アイリーンが困ったような顔を向ける。レスターは少し笑って肩をすくめてみせた。
「姫、我々も行きましょう。兄の元で今後のことを話し合おうと、お迎えにあがったのです」
 ユリシウスの説明を聞いて、アイリーンは皆が自分の目覚めるのを待っていてくれたのだと悟った。
「すみません……お待たせしてしまって」
顔を赤らめる彼女の肩を当たり前のように抱いて、レスターは歩き出した。
「いいさ、まだ日は昇ったばかりだ。もっと寝てたっていいくらいだよ、何しろ昨日はあんなに大変だったんだから……と言っても肝心な時にぼくだけその場にいなかったなんて、どう考えてもショックだ……」
途中から一人でぶつぶつ言っている。

「あの、お怪我の具合は……?」
アイリーンがユリシウスを気遣うと、彼は微笑んで答えた。
「ほんのかすり傷ですよ。兄も大事に至らず済みました、あなたのおかげです」

 癒しの魔法は魔力保持者が相手でないと効かないため、アイリーンは彼らの傷を癒すことができず気にかかっていたのだ。ホッとすると同時に、前を行くギメリックのことが気になって、彼の背中をじっと見つめる。

 彼もまだ怪我が治っていないはず……大丈夫だろうか?
一度使うとかなりの魔力を消耗する癒しの魔法を、ギメリックのために使うことを彼は許してくれなかった。今は、少し眠って魔力も回復したから、彼を治してあげたいのだけれど……。
 心話なら届く距離だが、彼が不機嫌そうだったので声をかけにくい。

 昨夜はゆっくり話をする暇などなかった。どうしてソルグの村にいたはずの自分がこの戦場にいるのか、説明もしていないし自分が彼の代理を務めてリムウルと交渉したことも話していない。彼は疑問に思っていないのだろうか? もし、もう誰かから聞いたのなら、どうして何も言ってくれないのだろう? まさかとは思うが、勝手なことをしたと怒っているのではと、心配になる。

 そこまで考えてアイリーンはハッとし、思わず心話で彼に呼びかけた。
“ギメリック!! 暦司たちの残党は……? 村は大丈夫かしら?”
ギメリックは振り向かず、そのまま歩き続けながら答えをよこした。
“暦司は全員倒した、生き残りは常人の兵士だけだ。奴らが村へ向かうとは考えにくいが一応、充分警戒するようにと、今朝早く長老に会って伝えてきた”
“……”
 昨夜の戦いで疲れきっていたのは彼も同じなのに……おそらく彼はほんのひととき休んだだけで、また魂の飛翔を使って村へ知らせに行ったのだ。

 村が安全だと知って嬉しかったが、アイリーンはギメリックが何でも一人で背負い込んでしまうことには不満だった。この様子だと、アイリーンの行動についてもきちんと把握しているに違いない。なのに何も言ってくれないなんて……。
 ますます不安を募らせている彼女の気持ちを察したのだろう。ギメリックは穏やかな口調で語りかけてきた。

“お前のおかげで助かったんだ、俺も皆も……礼を言おう。よくやったな。もう石の主として一人前だ”
 とたんにアイリーンの心はウソのように軽くなった。パッと顔を輝かせ、ギメリックの背中に向かって答えを返す。
“あなたが準備してくれていたからよ、ありがとう!……でも、もう一人で出て行ったりしないでね、本当に心配したんだから!!”

 アイリーンの心情が伝わって来て、思わずギメリックはチラリと振り返った。すると目に入ったのはレスターに肩を抱かれて歩いているアイリーンの姿だった。我ながら大人気ないと思いながらも不機嫌な顔をどうすることもできず、ギメリックは再び前を向くと更に足を早めた。

“……?”
アイリーンには、彼の機嫌の変化が全く理解できない。彼女は困惑し、どんどん先に行ってしまう彼の後ろ姿を見つめてそっとため息を吐いた。

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