薄明宮の奪還 更新日:2008.01.03


第4部 リムウル〜エンドルーア

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 第1章

21.決戦-4



 ティレルはギメリックに、ニッコリ笑いかけた。
「やっと会えたね、ギメリック……嬉しいよ。君がいなくなってから、隠れて獲物を殺す楽しみがなくなって、とてもつまらなかった」
子供のように無邪気な、その美しい笑顔を見つめ、ギメリックは痛ましげに眉をひそめた。
「ティレル……もうやめろ。今のお前なら、父親の言いなりにならなくて済むほどの力が、充分あるだろう?」
ティレルは驚いたように一瞬目を見張り、クスッと笑ったかと思うと今度は腹を抱えて笑い出した。
「ははは……っ……あぁ可笑しい……何? 私が父に命令されてこうしているとでも? 逆だよ!! 諸国を手に入れようと言い出したのは私だ」

 ギメリックが術を解いたのだろう、兵士たちは我に返ってしばらくぼんやりした後、中央で繰り広げられているやり取りを遠巻きにして聞いていた。ユリシウスたちも距離を置き、成り行きを眺めている。

「ギメリック、君と石を取り逃がした後の父の姿は、それは哀れだったよ。子供だった私でさえそう思う程にね。あのちっぽけな薄明宮に魔物とともに閉じこもり……いつ、君が石を手に自分を殺しに来るかと怯えて……」

 急にティレルの顔から表情が抜け落ちた。
「……バカな男だ。あれほど執着し、せっかく手に入れた王座も、石がなければ何の意味もない。ただ自分を縛り苦しめる枷となっただけで。……いい気味だった。そうとも、もういつでも、私はあの男を殺すことができる、何度も夢に見たようにね」

 再びティレルの顔に浮かんだ微笑みを、アイリーンは震えながらただ見つめることしかできなかった。
「だが利用価値があるうちは生かしておくさ。それで提案してやった、この大陸を平らげて意のままにし、隠れている魔力保持者を探し出して皆殺しにすれば良いのだと。そうすれば石の力を引き出せる者もいなくなる。たとえ最悪、石を見つけられなくても、少なくとも命を脅かされる心配はなくなるはずだとね。ギメリック、君が16になっても姿を現さないから、石の主になることに失敗したのだと、すぐにわかったよ。あの女は……」

 ティレルの顔に勝ち誇ったような冷笑が広がる。
「いったい、何を考えて私に戦いをいどんできたんだろうね? クククッ……まさか私に負けるとは思っていなかったんだろう。バカさ加減ではあの女の方が父より上手だな。楽しかったよ、あの女をいたぶり殺すのは」
「……!!」
微かな動揺を示すギメリックを、ティレルは面白そうに眺めた。
「君も私を見くびらない方がいいよ? 何しろこの10年をかけ、闇の塔の禁じられた魔術書を研究してきたのだから。私がたった一人でここにいるからと言って、勝ったつもりでいるのなら大間違い……さあ来い!! 相手をしてやろう!!」

 ティレルの手から光球が飛ぶ。とっさに、今度はアイリーンが結界を張った。光球が砕け散る。
「ティレル! やめて!!」
叫んだアイリーンを見てティレルはまた笑った。
「……お前が石の主? 笑わせるな。まだ魔力に目覚めて間もないのが見え見えだ、所詮、私の敵ではない。死にたくなければ石を渡せ!!」
 再び飛んできた光球を、ギメリックの手から放たれた光球が迎え撃つ。眩い光がパッと散り、一瞬、真昼のように辺りが照らされた。皆が思わず目を閉じた隙を突き、ティレルが呪文を叫んで腕を振った。すると周りの兵士たちの腰に下がっていた剣がひとりでに抜け、一点に向かって飛んで行く。

“アイリーン、マントを結界で強化して盾にしろ!!”
剣は実体のないギメリックの姿をすり抜け、後ろにいたアイリーンに突き刺さろうとした。しかし間一髪、彼女が体の前で広げたマントに遮られ弾き返される。
ギメリックがティレルに向かって手を突き出した。飛んで行った光球がティレルの結界に当たる。再び光が飛び散り、一帯がパッと輝いた。

「フン……ギメリック、君の魔力はこの程度のものだった? あぁそうそう、暦司たちと一戦交えたそうだねぇ。フフ、それならわかるよ、相当大変だったんだろう?」
冷たく笑うティレルに対峙しながら、ギメリックは心話でアイリーンに言った。
“やはりお前の魔力でなければ奴を倒せない、戦え!”
“で、でも……私、力のコントロールが……”

 思いきり力を振るえた幻獣の時とは違う。自分が投げつける炎でティレルを焼き殺してしまうのではと思うと、アイリーンは恐ろしかった。
“俺たちが負ければ誰も奴を止めることができなくなるんだぞ! それに俺はそろそろ体に戻らないとヤバい!”
魂が体を離れていられる時間はその時の魔力のパワーによって決まる。そのことをアイリーンは知らなかったが、ギメリックには自分の感覚としてそのリミットがわかるのだと思った。

“大変、早く体に戻って!!”
“バカか!! この状態を放って行けるわけがないだろう!! お前の迷いに奴は必ずつけこんでくる、しっかりしないとやられるぞ!!”


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 イスカはユリシウスの命を受け、アイリーンたちを守るため彼らがいるはずのテントにやってきた。しかしそこで見たものは、メチャメチャに潰れたテントの残骸だけだった。襲って来る敵を倒しつつ、数人の部下とともに残骸をかき分け探してみたが、誰も見つからない。

 しかたなく彼らはデクテオンのテントの方へ引き返した。すると、護衛の兵たちが呆然と突っ立ったまま、テントの方を眺めているのが見えた。
「何だ……?」
時折、そちらの方から眩しい光が射しては消える。イスカはハッとした。ギメリックと共に魔力保持者たちと戦った時の状況とよく似ていたからだ。
「急げ!!」
彼らは全力で駆け出した。


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“大丈夫だ、お前は随分と力をつけた、きっとうまくやれる。落ち着いて力をコントロールするんだ”

  ギメリックの声に励まされ、アイリーンは息を吸い込んだ。自分の中の力を意識して、指先に集める。襲ってきたティレルの光球を左手の結界で砕き、同時に右手で力を解き放った。
 石から恐ろしい程の力の奔流が流れ込んでくる。アイリーンはその激しさに歯を食いしばり、懸命に力を制御しつつ攻撃波にその力を注ぎ込んだ。

目もくらむような白い光がティレルに向かって飛んだ。危ういところでティレルはそれをかわす。

“相手の動きを予測して的を絞れ!”
ギメリックが叫んだとき、ティレルの呪文で激しい突風が襲ってきた。
「うわっ……!!」
舞い散る木の葉が鋭利な刃となって人々を襲う。ギメリックが呪文でそれを鎮める隙に、ティレルは剣を手にアイリーンに襲いかかってきた。
「あっ!!」
後ろへ下がろうとした拍子に倒れそうになるアイリーンをギメリックの魔力が支える。同時に放たれた彼の力がティレルの前進を押しとどめた。ティレルは剣に魔力で力を与えて投げつけてきた。

“アイリーン! マントを!!”
先ほどと同じくマントを盾に、アイリーンは剣を弾き返した。はね返った剣は弧を描いて飛んで行き、再びティレルの手に収まる。

 剣を手に、ティレルはアイリーンを見つめてクスッと嬉しそうに笑った。
「ギメリック、魔力での攻撃は防げても、実体のない今の君には武器による攻撃は防ぎようがないね。この女が切り刻まれるところを指をくわえて見ているがいい!」
言うなり、一気に間合いを詰めてアイリーンに迫って来る。
 ギメリックとアイリーンが同時に放った力で一瞬、彼の体は後ろに吹き飛んだ。しかしすぐに体勢を立て直し、更なるスピードで突進して来る。

“アイリーン、体の周りに結界を張れ!!”
ギメリックの声とともに兵士の剣が一つ、ティレルに向かって飛んだ。

キンッ……!!
見えない敵と切り結ぶように2、3度剣を合わせた後、ティレルが呪文を叫んで激しく剣を弾いた。飛ばされた剣がアイリーンに向かって飛んでくる。同時にティレルもまた剣を手に詰め寄って来た。

「姫っ!!」
魔力戦が剣による戦いに変わったと見て、背後からティレルに斬りかかろうとユリシウスが走り寄る。素早く振り向いたティレルの剣がユリシウスの体をかすめた。
「……っ!!」
「ユリシウス様!!」
周りの兵士たちの間から、イスカが叫びながら飛び出してきた。

飛んできた剣をギメリックの力がはね飛ばす。アイリーンはティレルの背中に向けて再び力を放った。
ハッと振り返ったティレルの体がまともに力を受け、白銀に輝く。その体に、イスカが剣を構えて突っ込んで行った。

「……!!」

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