薄明宮の奪還 更新日:2007.02.24


第3部 リムウル

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 第4章

4.襲撃



“不思議な人だなぁ……やっぱり、女神様みたいだ……”
何とも言えない感動に胸をふるわせ、ポルがあこがれの眼差しで、神秘の紫の瞳を見上げた時。
アイリーンはハッとして、洞窟の入り口に向き直った。顔色が変わっている。
「何か来るわ……」
「あっ?!……ちょっと……待ってよ!!」
駆け出した彼女を追って、慌ててポルも走り出す。

“来なくていい!! 二人とも、そこにいろ!!”
ギメリックの心話がポルの頭にも響いてきた。
しかしアイリーンは聞く耳を持たない様子で走り続ける。
ようやく、ポルにも、どうやら敵のものらしい魔力の気配が感じられた。
「ウソだろ……? 結界を破られたなんて……おれ、何も感じなかったぞ……」
驚愕のつぶやきを漏らし、洞窟の入り口で立ち止まったアイリーンに追いついてみると。

 すでに、ギメリックと敵の戦いは始まっていた。
「ギェェェェッ!!」
耳を塞ぎたくなるようなおぞましい奇声を発したのは、翼の両端が5メートルはあろうかという、黒く不吉な、巨大な鳥だった。
恐ろしい早さで急降下してくる。
獰猛そうな鋭いカギ爪が、ギメリックに襲いかかろうと迫っていくのが見えた。
「ギメリック!!」
アイリーンが叫んで駆け寄ろうとする。
「バカ!! 来るなっ!!」
声とともに襲ってきた魔力で、アイリーンの動きが止まった。
「ギャッ!!」
同時に、衝撃波を受けた鳥が声を上げる。
パッと黒い羽が飛び散った。
一旦、墜落しかけた鳥はしかし途中で翼に力を取り戻し、再び空に舞い上がった。
すかさず、ギメリックが放った光球が追い打ちをかける。
サッとかわした鳥は空中で反転した。
「ギェェェェッ!!」
巨大なクチバシから、再び叫び声が上がる。

“すっすげぇ……早い!!”
背中を、冷たい汗が流れていくのを感じながら、ポルは心の中でつぶやいた。
魔力は、古(いにしえ)の神々の血に宿るもの……当然、王族に近ければ近いほど、その血は濃い。
何度かギメリックの魔力戦を目の当たりにしたが、これほど強い魔力を感じさせる敵は初めてだった。
“これは……動物を操ってるんじゃない、姿変えだ……”
自らの姿を変えられるほどの魔力を持つ者。
エンドルーアの大貴族の中でも、トップクラスに違いない……。

“ポル!”
半ば呆然と見守っていたポルは、響いてきたギメリックの呼び声に我に返った。
“……すぐに片を付ける、だから彼女に魔力を使わせるな!!”
“あ、わかった……!!”

 見ると、ギメリックの魔力がまだ彼女を縛っているのか、アイリーンは洞窟を一歩出た所で立ち尽くしたまま小さく震えている。
「アイリーン、こっちへ!!」
ポルが彼女の腕に手をかけると、崩れ落ちるように彼女の体がよろめいた。
そのまま洞窟の中まで有無を言わさず引っ張っていく。
「いい? 大丈夫だから!! あの人にまかせて!!」
懸命に言うポルに、アイリーンは蒼白になった顔で首を振った。
「でも……」
「ギャアアアアアッ!!」
恐ろしい叫び声、そしてドスン!!という地響き。
ポルとアイリーンは顔を見合わせ、そして洞窟から駆け出していった。

 墜落した鳥にゆっくりと歩み寄っていたギメリックが、二人に声をかける。
「まだ終わっていない、寄るな!!」
とどめを、刺さなければならないのか……それとも助けられるのか……見極めなければならない。
鳥のそばに跪き、その上に屈み込んだとき。
突如、思いもよらぬ俊敏さで、鳥は巨大なクチバシをもたげてギメリックの頭に噛み付こうとした。
「あっ!!」
「きゃぁっ……」
恐怖の声を上げるポルとアイリーンの目の前で、とっさに身を引いたギメリックの頬を、鋭いクチバシがかすめた。
「っ……!!」
彼の一瞬の隙を突き、鳥は高く空に舞い上がった。
“まずいっ……村の正確な位置をエンドルーアに知られてしまう!”
逃げていく鳥を追って駆け出そうとするギメリックに、アイリーンがしがみついた。
「ギメリック……!! 私も行……」
「バカ野郎!! おとなしくしてろ!!」
彼が心話で呼んだ馬が地響きを立てて走ってきた。
「いや……!!」
心配で、じっと待ってなどいられない!!
ぴったりと合わさった体から、アイリーンの気持ちが痛いほど伝わってくる。
このまま彼女を放って行けばまた無理をして石の魔力を使ってしまうかも知れない。
しかしどこまで追いかけることになるか知れないのだ、連れて行くのはもっと危険だった。

 緊急を要するこの場で、迷ってなどいられない……!!
ギメリックは彼女の腕を引きはがし、そしてすかさずその手を引いて自分の腕で彼女を抱きしめた。
「……☆×?☆×☆!!!」
赤面しているポルなど目に入っていないかのごとく……彼女のあごを持ち上げるとその唇にキスを落とす。
驚いて目を見開いたままのアイリーンを放し、走ってきた馬に飛び乗ると、ギメリックは言った。
「お前に誓おう、もう死を望んだりはしない、必ず帰ってくると!!」
諦めでも、ましてや偽りでもない、真に晴れ晴れとしたギメリックの笑顔にハッと胸を突かれ、アイリーンは胸に手を当てた。
「だからおとなしく待っていろ!!」

 走っていく後ろ姿を見送りながらも、なおも心配は止まらない。
アイリーンにもわかっていた。敵は、村の結界を破るほどの魔力の持ち主なのだと……。
立ち尽くす彼女の、胸の前で組んだ手が小刻みに震えているのを見て、ポルはパッと前に飛び出した。自分の馬を心で呼びながら叫ぶ。
「心配しないで! おれが追いかけてって、ちゃんと連れて帰ってくるからさ!! 」


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