夢の谷のドラゴン


ある青い月の夜、一匹の恐竜の子供が、目を覚まして言いました。
「お母ちゃん、ぼく、夢をみたよ。こことおんなじで、青い光がいっぱいさして、すっごく明るいの。そんな谷の底に、ドラゴンが眠ってるんだ。でっかいでっかいドラゴンだよ。きっと口から青い火を吹くね。そうでしょう?」
母親の恐竜は眠そうに言いました。
「朝はまだだよ。お眠りなさい」

つぎの夜、恐竜の子はまた言いました。
「ねえ、あのドラゴンはどこ? あの紫のうろこに触ってみたいんだ。あの翼で空を駆けるところ、見てみたいよ」
「ドラゴンて何だい? 翼だって? あのいまいましいプテラノドンのことかい?」
「違うよ、ドラゴンだよ。うろこと翼、長い尻尾、ぎざぎざの歯をしたドラゴンだよ。さっきまで夢の中にいたんだ」
「ただの夢だよ。忘れておしまい」

朝が来て、空は金色に輝きました。
恐竜の子は言いました。
「ここじゃない。ドラゴンはここにはいないんだ。ぼく、ドラゴンを探しに行くよ」
そうして、子供は出発しました。

長い長い間、恐竜の子は旅をしました。
恐竜の子は、いつの間にか、もう子供ではなくなっていました。
いろんなことがありましたから。
でも彼は、ドラゴンを見つけることを諦めませんでした。

そして、とうとうある日、夢に見た青い月の谷間にたどり着いたのです。
けれど、ドラゴンはいませんでした。
彼はがっかりしました。

「ああ、何だか、疲れちゃったよ。ずうっとドラゴンに会えるのを楽しみにしてたのに。ここにいないとしたら、どこにいるんだろう。でもぼく、もうあんまり遠くに行けそうもないや。本当に、疲れちゃった」

谷間の隅に、湖がありました。
動くもの一つ無い青白い谷の底で、銀の湖面は鏡のように静まりかえっていました。
彼はそこで、水を飲もうと思いました。そして、しばらく休むつもりでした。
深い深い眠りが、彼を手招きしていました。

湖の縁からのぞきこんだ時、彼は水の中にドラゴンの姿を見ました。
子供の頃、夢に見たのとそっくりな、紫のうろこと大きな翼。

「ああ、君、こんなところに居たんだね。ぼく、随分探したよ」
彼が嬉しくて尻尾をひとふりすると、水の中のドラゴンも尻尾をふりました。
「なんだ、ぼくが水に映ってるのか。ぼくはドラゴンになっちゃったのかな」

その時、水の中のドラゴンが言いました。
「違うよ。でも、そうとも言える。君はぼくでもあり、君でもある。これから夢を見る子供たちは、君の姿を見るかも知れない。ぼくの姿を見るかも知れない」
「じゃあ今度はぼくも、夢に見られる番なんだね」
「そうだよ。いつか、君を夢に見た子供が、ここにやって来るかもしれない」
「そしたら、その子は君のうろこのかけらをほしがるね。紫水晶みたいにきれいだもの」
「そして、君の背中に登りたがるよ。わくわくするような冒険の旅にでかけるためにね」
恐竜はうっとりとして、溜め息をつきました。
「それまで、ぼくはちょっと眠るよ。その子たちの夢を見れるかな」
「うん、きっとね。ぼくはずうっと、君を夢で見てたよ」

年老いた恐竜は幸せそうな笑みを浮かべると、湖のそばに横たわりました。

こうして、ドラゴンを夢見た恐竜は、ドラゴンと一緒に眠っています。
深い満ち足りた眠りの中で、遙かな未来の子供たちの夢を見ながら。


-Fin-
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